母児の健康 食生活 (栄養)

妊娠中の食事が子どもの神経発達に与える影響

細川忠宏

妊娠期間を通じてたんぱく質とビタミンやミネラルをバランスよく摂取し、鉄分を十分に摂取することは、子どもの神経発達に良い影響を与える可能性が中国の研究で示されました。
アートボード 1
図:nutrients 2024; 16: 1530. Graphical Abstractを改変


妊娠中の母親の食事が胎児の神経発達に影響を及ぼすことは、これまで多くの研究によって示されてきました。ただし、ほとんどの研究は、特定の栄養素や食品による影響を調査したものでした。

そこで中国にある安徽医科大学の研究グループは、妊婦の妊娠中の食事パターンと出生児の神経発達との関連について調べました。

対象となったのは、2017年5月から2018年9月までに中国安徽省の馬鞍山母子保健センターで初回妊婦健診を受診した1423名の女性(18歳以上で自然妊娠)とその出生児でした。

この調査では、妊娠初期、妊娠中期、妊娠後期の3回にわたり、普段の食事状況についてのアンケート調査を行いました。
そして、その結果を元にした成分の分析から以下5つの食事パターンが抽出され、妊娠期ごとの食事パターンと出生時の36ヶ月時点での神経発達との関連を分析しました。

・たんぱく質や微量栄養素*が豊富な食事パターン
・鉄分の少ない食事パターン
・パスタを主食とする食事パターン
・鉄分が豊富な食事パターン
・根菜類や果物、焼き料理の食事パターン

出生児の神経発達は、Ages and Stages Questionnaire・第3版(ASQ-3)というアンケートによって調査されました。
ASQ-3とは、コミュニケーション、粗大運動(腕や足などの大きな筋肉を使う動き)、微細運動(手指の細かい動き)、問題解決(手順を考えて行動するなど)、個人と社会(他人とのやり取りに関する行動等)の5つの領域について、両親の回答をもとに子どもの発達をスコア化し、評価する質問票です。

分析の結果、妊娠中通してたんぱく質や微量栄養素が豊富な食事パターンであった母親の子どもは、粗大運動や問題解決に関してスコアが高く、神経発達が良好だということがわかりました。さらに、鉄分の少ない食事パターンの母親から生まれた子どもは、神経発達が不良であることもわかりました。

3つの妊娠期別にみると、妊娠初期に鉄分の少ない食事パターンだった母親から生まれた子どもは問題解決のスコアが低く、妊娠中期と後期に鉄分の少ない食事パターンだった母親の子どもは粗大運動のスコアが低かったことがわかりました。
さらに、妊娠後期に鉄分の少ない食事パターンだった母親の子どもは、コミュニケーションスコアが低いこともわかりました。

この研究によって、妊娠中にタンパク質と微量栄養素が豊富な食事パターンをとることは、出生児の神経発達に良い影響をあたえることが示されました。また、妊娠中の女性の食生活が鉄分の少ない食事パターンになると、出生児の神経発達異常のリスク上昇に関連することも示されました。

*微量栄養素:微量ながらも人の発達や代謝機能を適切に維持するために必要な栄養素であるビタミン、ミネラルのこと。 


<コメント>
 この中国の研究により、妊娠中の母親の食事パターンが「たんぱく質や微量栄養素が豊富な食事パターン」であった場合、それが妊娠中すべての期間を通した場合はもちろん、各妊娠期に分けて見ても、生まれた子供の神経発達に良い影響を与えることが分かったとのことです。

一方で妊娠中に「鉄分が少ない食事パターン」だった場合では、生まれた子供の神経発達にマイナスの影響があることが示されたとのことです。

妊娠中にはたんぱく質やビタミン・ミネラル、また特に鉄を食事から十分に摂取できるよう意識すると良いかもしれません。

なお、鉄は食事にビタミンCやクエン酸、リンゴ酸などの有機酸を摂り入れたり、酸味のあるものやスパイスを加えることで胃酸の分泌がよくなり、吸収率を高めることができると言われています。