「地中海食的」栄養摂取による胚質改善への有効性:二重盲検比較対照試験
ART治療開始前の6週間、地中海食の特徴的な栄養素として、オメガ3脂肪酸(DHA・EPA)やビタミンDのサプリメント、調理用オリーブオイルやオリーブオイルスプレッドの摂取はその後の胚発育に影響を及ぼし得ることが、イギリスで実施された二重盲検無作為比較対照試験で明らかになりました。
サザンプトン大学の研究グループは、IVFもしくはICSI治療カップルを対象に、治療開始前の6週間のオメガ3系脂肪酸とビタミンD、及びオリーブオイル摂取が胚発育に関わる動的マーカーへの影響を検討することを目的に二重盲検無作為比較対照試験(PREPARE研究)を実施しました。
これらのデータから地中海食の特徴的な栄養を摂取することでCC2は変わりませんでしたが、CC4やS3の速度においては、着床前の胚発育に影響を及ぼすことがわかりました。今後は、このことの妊娠率や出産率への影響を検討する必要があります。
そこで計画されたのが今回のPREPARE研究でした。ただし、一定の期間、地中海食を食べたカップルとそうでないカップルの治療成績を比較するのは、到底、現実的ではありません。そのため、この研究では、介入群には、地中海食を食べてもらう代わりに、魚介類を多く食べる地中海食に特徴的な栄養素であるオメガ3系脂肪酸のDHAやEPA、ビタミンDを含む飲料を飲み、そして、調理用のオリーブオイルを使い、オリーブオイルスプレッドを食べてもらうことにしています。一方、対照群にはDHAやEPA、ビタミンDが入っていない飲料をプラセボとして飲んでもらい、ひまわり種子オイルを調理に使い、ひまわり種子オイルスプレッドを食べてもらいました。
サザンプトン大学の研究グループは、IVFもしくはICSI治療カップルを対象に、治療開始前の6週間のオメガ3系脂肪酸とビタミンD、及びオリーブオイル摂取が胚発育に関わる動的マーカーへの影響を検討することを目的に二重盲検無作為比較対照試験(PREPARE研究)を実施しました。
ART患者カップル111組を無作為に2つのグループにわけ、一方のカップル(55組・介入群)には治療開始前の6週間、1日にEPAを800mgとDHAを1200mg、ビタミンDを10μgをを含む飲料、そして、調理用オルイーブオイルとオリーブオイルスプレッドを摂取してもらい、もう一方のカップル(56組・対照群)には、EPAやDHA、ビタミンDを含まない飲料とひまわり種子オイル、ひまわり種子オイルスプレッドを、それぞれ、摂取してもらい、体外受精、もしくは、顕微授精実施後のタイムラプス培養で分析された胚(750:介入群で得られた胚が356個、対照群で得られた胚が394個)の発育に関わる動的マーカーを比較しました。
その結果、主要評価項目で、胚盤胞到達率や着床率に関連しているとされている、2細胞から3細胞になるまでの時間(CC2)には有意な差は認められませんでした。ただし、副次的な評価項目の内、5細胞から9細胞になるまでの時間(CC4)と5細胞から8細胞になるまでの時間(S3)、3日目胚のKIDScore(タイムラプス培養によって得られたデータからの胚の評価)のおいて有意な差が認められ、CC4とS3は介入群は対照群に比べて短く、KIDScoreは、介入群のほうが対照群よりも高いことがわかりました。
尚、フラグメンテーションや割球の均一性、3日目の多核胚、また、桑実胚形成形成、胞胚形成、胚盤胞形成、ハッチングまでの時間には差は認められませんでした。
これらのデータから地中海食の特徴的な栄養を摂取することでCC2は変わりませんでしたが、CC4やS3の速度においては、着床前の胚発育に影響を及ぼすことがわかりました。今後は、このことの妊娠率や出産率への影響を検討する必要があります。
コメント
食(栄養)と生殖機能やART治療成績の関係についての研究が増えていますが、最近も傾向として栄養素や食品単体ではなく、食べ方、すなわち、食事パターンに着目し、どんな食べ方をすれば良好な治療成績に関連するのかを調べた研究が増えています。私たちは、普段、栄養素を食べているわけではなく、いろいろな食べ物を組み合わせて食事しているからです。そして、最も多くの研究がなされている食事パターンが地中海食で、その特徴は、全粒の穀物、緑黄色野菜、果物、豆類・ナッツ、きのこ類を多く食べ、赤肉の摂取は少量で魚介類が多く、油はオリーブオイルをふんだんに使うことです。地中海食にどれだけ近い食べ方をしているかをスコア化し、治療成績との関連を調べると、スコアが高いほど、すなわち、地中海食に近い食べ方をしている人ほど治療成績が良好であるという研究報告がなされています。
食(栄養)と生殖機能やART治療成績の関係についての研究が増えていますが、最近も傾向として栄養素や食品単体ではなく、食べ方、すなわち、食事パターンに着目し、どんな食べ方をすれば良好な治療成績に関連するのかを調べた研究が増えています。私たちは、普段、栄養素を食べているわけではなく、いろいろな食べ物を組み合わせて食事しているからです。そして、最も多くの研究がなされている食事パターンが地中海食で、その特徴は、全粒の穀物、緑黄色野菜、果物、豆類・ナッツ、きのこ類を多く食べ、赤肉の摂取は少量で魚介類が多く、油はオリーブオイルをふんだんに使うことです。地中海食にどれだけ近い食べ方をしているかをスコア化し、治療成績との関連を調べると、スコアが高いほど、すなわち、地中海食に近い食べ方をしている人ほど治療成績が良好であるという研究報告がなされています。
ただし、これまでの研究はいずれも観察研究で、地中海食に近い食べ方をすると治療成績が向上するのか否かは、二重盲検無作為比較対照試験によって検証されることを待たなければなりませんでした。
そこで計画されたのが今回のPREPARE研究でした。ただし、一定の期間、地中海食を食べたカップルとそうでないカップルの治療成績を比較するのは、到底、現実的ではありません。そのため、この研究では、介入群には、地中海食を食べてもらう代わりに、魚介類を多く食べる地中海食に特徴的な栄養素であるオメガ3系脂肪酸のDHAやEPA、ビタミンDを含む飲料を飲み、そして、調理用のオリーブオイルを使い、オリーブオイルスプレッドを食べてもらうことにしています。一方、対照群にはDHAやEPA、ビタミンDが入っていない飲料をプラセボとして飲んでもらい、ひまわり種子オイルを調理に使い、ひまわり種子オイルスプレッドを食べてもらいました。
そして、比較したのは最近、主流になっているタイムラプスシステムで胚の動的な指標で、胚発育動態です。主要評価項目のCC2(2細胞から3細胞まで時間)は、この時間が11.9時間以内だとそれ以上かかった場合に比べて胚盤胞到達率や着床率が高いという研究報告がなされています。要するに、良好な治療成績に関連する指標として、胚発育の動的なマーカーを用いたということです。
つまり、地中海食に特徴的な栄養素を多く摂取することが胚の発育に良好な影響を及ぼすのか否かを検証してみようということです。
結果は主要評価項目のCC2は差はありませんでしたが、その他の項目では有意な差が認められ、何らかのプラスの影響が確認されました。
ただし、妊娠率には差がありませんでした。
今後は栄養素の摂取期間や摂取量を検討する必要があるかもしれません。
引き続き、食と治療成績の関連研究に注目していきたいと思います。