有害物質

妊娠中の魚の摂取と出生児の知能の発達

細川忠宏

妊娠中に魚を食べることによる赤ちゃんへの影響は、オメガ3系脂肪酸のプラスの影響が水銀のマイナスの影響を上回ることが、ロチェスター大学とセイシェル健康省の共同研究「The Seychelles Child Development Study(セイシェル小児発達研究)」の最新のデータで明らかになりました。

 1,265組の母子を対象とした研究では、まず、妊娠28週時点の母親の血液を採取し、多価不飽和脂肪酸の濃度を、分娩時の毛髪を採取し、水銀の濃度を、アンケートにより週にどれくらいの魚を食べていたか、それぞれ、測定しました。そして、生後20ヶ月の時点にベイリー乳幼児発達検査やマッカーサーコミュニケーション発達質問紙、乳幼児行動チェックリストを実施し、それらの関係を調べました。 

その結果、水銀濃度と子の神経発達に直接の関連は見られませんでした。そして、オメガ3脂肪酸の濃度別に3つのグループに分け、最も濃度が高かったグループの母親は最も水銀濃度も高かったにもかかわらず、子の運動発達指標が高かったことがわかりました。 

ただし、オメガ3系脂肪酸の摂取量に対するオメガ6脂肪酸の摂取量の割合が高かった(オメガ3脂肪酸の摂取が少なく、オメガ6脂肪酸の摂取が多い)母親の子どもだけは、水銀の濃度が高くなるほど運動発達指標が低くなる傾向が見られました。 

また、母親のオメガ3系脂肪酸の一種であるDHAの濃度高かった子ほど言語発達は良好であったものの、心理発達指標は低かったことがわかりました。
 
これらの結果から妊娠中に魚を食べることは、胎児の神経発達にとっては、オメガ3系脂肪酸のプラスの影響が水銀のマイナスの影響を上回ると考えられるとしています。

ただし、オメガ3系脂肪酸とオメガ6系脂肪酸の比率にとっては別の影響を及ぼすかもしれないと結論づけています。 

 
海水中に含まれている無機水銀は細菌などの働きでメチル水銀などに変わります。そのため魚の赤身に多く含まれていて、妊婦が魚を食べると胎盤の関門を通り抜けて,胎児の身体にも入ってしまいます。メチル水銀は神経系に作用しますが、神経系が発育中である胎児はその影響を特に受けやすいと言われています。 

そのため、妊娠中は水銀が多く含まれている魚を食べ過ぎないように注意する必要があると考えられてきました。厚生労働省も魚の種類別に食べる量の目安をアドバイスしています。 

ただ、妊娠中は魚は一切食べてはいけないということではありません。魚には、同じく胎児の脳神経系の発育に必須のオメガ3脂肪酸が豊富ですので、そういう観点からは積極的に食べたい食べ物のひとつです。 

今回の研究データは魚に含まれるもうオメガ3脂肪酸のメリットが水銀のデメリットを上回ることを示すものですので、もちろん、食べ過ぎるのはよくないでしょうが、妊娠中も水銀を心配して、控えなくてもよいわけです。 

また、オメガ6脂肪酸とオメガ3脂肪酸の摂取比率も子どもの発育に影響を及ぼす可能性があるようです。植物油に豊富なリノール酸の取り過ぎに注意することも大切です。

 最後にメチル水銀の影響ですが、出生後はすでに神経系は出来上がっていますので心配する必要はありません。また,メチル水銀は母乳中には出にくいことがわかっていますので、授乳中も心配はありません。 


投稿者:細川