有害物質

大気汚染の精子の質への影響

細川忠宏

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イタリアのトスカーナ州では、COVID-19の感染拡大に際したロックダウンを通して大気汚染物質が大幅に減少し、不妊治療クリニックを受信した男性の精子の質が改善されたことから、大気汚染が男性不妊に影響を与える可能性が示されました。

新型コロナウィルスの感染拡大にあたって世界規模で実施されたロックダウンは、地球上の大気にも大きな影響を与え、大気汚染物質である窒素酸化物の排出量は、地球全体で少なくとも15%、欧州や北米では18-25%減少したとの報告がなされています。

大気汚染物質が精子に与える影響は、今までさまざまな研究がなされていますが、今回イタリアの研究者たちによって、ロックダウンによる大気汚染物質の減少と精子の質との関連が調査されました。

トスカーナの不妊治療クリニックに通院で精液検査と精子DNA断片化指数検査を受けた男性患者を対象に、ロックダウンの前と後で、数値に変化はあったか、また大気汚染物質の減少との関連を調べました。

対象となったのは、2020年3月のロックダウン前に検査を受けた119名と、ロックダウン後の2020年6月~12月に検査を受けた105名でした。

その結果、大気汚染による影響をデータ上排除したうえで、ロックダウン前の検査結果に比べ、ロックダウン後は、精子の運動率が明らかに上昇し、精子DNA断片化指数*は明らかに改善が見られたということです。

ロックダウンを通して、大気汚染物質は大幅に減少していることから、大気汚染が精子の質の低下に関連している可能性が示されました。

*) 精子DNA断片化指数(DFI):精液の中にDNAの損傷した精子が含まれる割合

<コメント>
大気汚染が男性の精液に与える影響についての研究です。今回の研究で大気汚染との関連がみられたのは精子の運動率と精子DNA断片化率でした。

精子DNA断片化率とは、DNAが損傷してしまった精子が精液中にどれくらい含まれるかを表したものです。

DNAに損傷のある精子は、受精3日目以降の胚の発育にマイナスの影響を及ぼすことがわかっています。

そして精子のDNAが損傷してしまう原因の一番大きなものは酸化ストレスと言われ、大気中の汚染物質によっても酸化ストレスが引き起こされることがわかっています。

今後は、それぞれの汚染物質がどのように精子に悪影響を与えているか、さらなる研究が期待されます。